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舞台照明とポストドラマ演劇とアップルパイとクィア障害学

お手軽PAセットとPAさん――街の音響屋さんの落日

f:id:appleflourbutter:20170702013529j:plain Stagepasというというヤマハ製のPAセットがある。私の通っていた高校の放送室にも、これの古い機種(Stagepas 300だった気がする)があって、小規模のPAでは重宝していたことを覚えている。スピーカーとパワードミキサーが合体するような構造になっていて持ち運びも簡単。マイクとケーブルがあればとりあえず音が出る。*1 それだけでも便利すぎるのに最新機種はフィードバックサプレッサーとかSPXのリバーブとかも付いているのだそう。 説明書もわかりやすく、明らかに音響の素人が使うことを前提としている。これならうちの母校の生徒会担当の現代文の先生でも使える。すばらしい! でも、私はこれを素直に喜ぶことはできない。

これは音響/PA業界にとって脅威だと思う。

街の音響屋さんVSパワードスピーカー

もちろん、東京ドームや武道館でラインアレイを吊って、モニターとFOHで卓を分けて、といった大規模な有名アーティストの現場をこなすPA会社には関係のない話である。ここで問題なのは、神社のお祭りや町内会のカラオケ大会のような現場を担当する小規模のPA会社だ。
マイクを2,3本、CDや音楽プレイヤー、(運が悪ければ)MD、(もっと運が悪ければ)カセットテープ などの入力を16chくらいのミキサーでまとめ、GEQを通してアンプに送り、一対のスピーカーから鳴らす。これこそ、STAGEPASがターゲットとしている市場ではないだろうか。
音質にはそこまでこだわらず、GEQはなくてもよい。音量は頻繁に変えないからミキサーは60mmフェーダーでなくてつまみでいい。そのあたりを少しづつ妥協していけば機材はほぼSTAGEPASと変わらなくなる。マイクだって58じゃなくてベリンガーの安物でいいだろう。ここまでくればセッティングとオペレートはちょっと機械に強い人なら全く問題なくできるはずだ。

そのように、便利な機材が普及することはPAさんを不要にする。クライアントが直接機材を触り、それなりの音を出す。それで満足する。前のようにすばらしい音ではないかもしれない。前のように細やかな音量調節によって聞きやすいスピーチが届けられることはないかもしれない。でも、それで十分なのではないか。
STAGEPASは7万円。PA会社に依頼した場合の値段を1回3万円だとすれば、3回目でSTAGEPASのほうが安くなる。マイクなどの周辺機器を入れても5回目で十分だろう。
これからもっと機材は便利になるだろう。 オートマチックミキサーのようなものがもっと高機能になって安い機材にも取り入れられるようになるかもしれない。そうなったときにPAさんたちはどうなるのだろうか。ラッダイト運動でも起こすのだろうか。

*1:ギターとかに使うフォンのケーブルでアンプとスピーカーの間を繋いでたのは内緒。